北朝鮮における「リアル・イカゲーム」 リュ・ギョン保衛部副部長の場合

投稿者: | 2021年11月26日

きのう「芸能」のほうで、RFA(自由アジア放送)の報道をもとに、この記事を書き、北朝鮮の人々がまさに「リアル・イカゲーム」を強いられていることを紹介した。

■密輸業者は死刑、視聴した高校生たちも厳罰!「リアル・イカゲーム」を生きる北の住民

それで北に暮らす人々のことに思いを巡らし、なんとなく、日頃、ときどきチェックしている周成賀(チュ・ソンハ 1975年生まれ、98年から脱北を試み、02年から韓国に定住、現在、東亜日報の記者として働きながら北朝鮮情勢などをレポートしている)氏のコラム「周成賀記者のソウルと平壌の間」をチェックしてみたところ、まさに「リアル・イカゲーム」というしかない、ある情報部幹部の悲劇が描かれていた。●東亜日報2021-11-25「リュ・ギョン保衛部副部長はなぜ処刑されたのか」

リュ・ギョン保衛部副部長(処刑当時)。

2002年9月17日、平壌で金正日と小泉純一郎首相の間で会談が行われた。リュ・ギョンはこのとき、裏で動いて会談を成功させた。大きな仕事を順調にこなす、できる男だったのだが、後に、金正日の怒りを買って処刑されてしまった。

どうして、そうなったのか?

長い間、真相が不明だった彼が処刑された理由を、保衛部に10年間勤め、リュ・ギョンと酒を飲んだこともある脱北者が明かした。

その話によると、リュ・ギョンは90年代後半、保衛部の海外班探索処(海外に派遣された人員の管理をする部署)の中国担当指導員をしていた。やがて自身が、海外に安全代表(北朝鮮大使館の保衛部員用のポスト)候補になった。それで安全代表選抜の面談を受けたところ、上部は彼の優秀さを知り、海外に派遣するのではなく、保衛部内部で昇進させ、様々な重要任務を与えることにした。

00年初め、リュ・ギョンは平壌瑞山ホテルで日本のスパイを逮捕し、釈放する見返りに、日本から300万ドルを受け取った。これを機に金正日の信任を受けるようになる。

02年9月には小泉純一郎首相の訪朝を成功させた。金正日が日本人拉致被害者を認めたため会談は失敗に終わったが、リュ・ギョン副部長は何の処罰も受けなかった。

その後、米国人女性記者2人を逮捕し、09年8月、ビル・クリントン元米大統領の訪朝も成功させた。リュ・ギョンは難しい外交行事を相次いで成功させ、金正日の信任はどんどん高まった。

リュ・ギョンは、保衛部ナンバー2、副部長にまで昇進した。自宅と事務所には、金正日の直通電話が開設された。北朝鮮で、自宅にまで金正日の直通電話が設置された人はめったにいない。北朝鮮で最高の栄誉、共和国英雄勲章も2度、受賞した。

ここまでは、イカゲームでいうなら、第1ゲーム、第2ゲーム。第3ゲームと、順調に勝ち進んできたわけだ。

ところが、次のゲームで致命的なミスを犯す。

10年12月、リュ・ギョンは、南北首脳会談の実現を求める金正日の密命を受け、韓国に金正日の特使として派遣された。当時の韓国大統領は李明博元。李大統領の回顧録「大統領の時間」には、このときの模様がこう記されている。

「2010年12月5日、北朝鮮側保衛部高官リュ・ギョンは秘密裏にソウルに来た。大佐1人、上佐(大佐の下、中佐の上)1人と通信員2人を帯同していた。彼らはソウルで私に会うことを期待していたようだ。「将軍様のメッセージを持ってきたのに、李大統領はなぜ私たちに会わないのか」と激しく抗議したという。しかし、確認したところ、彼らは金正日の書簡を持ってきていなかった。それで、彼らに会わなかった。彼らは予定を1日延ばして滞在し、その後、帰った」

李大統領に会うことすらできず、韓国でまったく成果を上げることができなかったリュ・ギョン副部長。帰途、彼の胸中は深い失望と、上からの叱責と処罰への恐怖でいっぱいだったことだろう。

ここで魔が差してしまった。平壌に戻ると、一緒に派遣された代表団員と組んで、「南北首脳会談の開催にかなりの進展を見せ、韓国側から肯定的な回答を受けた」と虚偽の報告書を作成して、金正日に渡したのだった。

だが、4人の代表団員のうちの1人が上部に事実を伝えてしまった。「だまされた!」と金正日は激怒し、リュ・ギョン副部長の処刑を命じたのだった。

なんとも、アイロニーな結果ではないだろうか? それまでの大成功といえる業績が彼を追い込んでしまったのだから。

以下、周成賀氏の記事から。

リュ・ギョンは処刑され、家族は全員、政治犯収容所に収監された。リュ・ギョンと一緒に韓国に行ってきた人は、密告した人を除くと、やはり同じ運命だったはずだ。怒った金正日は保衛部に「残余毒を清算せよ」という指示を下した。 リュ・ギョンの腹心とされた数十人がまたわけも分からず処刑され、家族は収容所に連れて行かれた。北朝鮮では、わけも分からずに列を間違えて(ミスを犯した上司を持ったことで)処刑される。このような人々が最も気の毒だ。

気の毒なんてもんじゃないだろう!

しかし…、脱北者で、誰よりも北の現実を知る周成賀氏の言葉だ。

重い。


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