415総選挙前、気鋭の韓国人研究者が「中国ドリームから目覚めよ」と叫んだのだったが… 

投稿者: | 2020年4月20日

今回の第21代国会議員総選挙(4月15日)を目前に控えた4月4日、朝鮮日報が、韓国人の気鋭の中国研究者、ソン・ジェユン/カナダ·マクマスター大学教授(51)が「悲しき中国 人民民主独裁1948~1964」という本を出版したのを機に、ソン教授のインタビュー記事を掲載した。

記事のタイトルは、
「韓国の権力者たちよ、辺境の中国ドリームから目覚めよ」

中国現代史の詳細については日本の研究者が日本語で書いたものを読めば十分。ここでは、その部分については取り上げず、日本人がぜひ韓国の識者から聞いてみたい部分、香港事態、台湾問題、新型コロナ、韓中関係で懸念する点などに限定して紹介しようと思う。

Q:香港のデモについて触れている。香港の未来をどう展望するか。中国の未来でもあり、コロナ事態からも分かるように、中国の問題はすなわち世界の問題でもあるが。

香港の将来に関する短期の見通しは暗いかもしれないが、長期見通しは非常に明るいと思う。香港の人々は、自由、民主、人権、法治など人類普遍の価値を体得し、毎日、英語で全世界の情報を吸収している世界市民だ。彼らは北京の中国政府が望む中国人にはなれない。2019年、香港の市民たちは「反送中」のスローガンを掲げた。反送中の英語訳は“No extradition to China”だ。

香港の市民が中国に犯罪人を引き渡すことはできないと主張したのだ。一国両制によると、香港は中国の一部であり、香港市民も中国人だろうが、香港市民は自らを香港人(Hong Kongers)と名乗る。香港中文大学のデモでは「天滅中共」すなわち「天が中国共産党を滅ぼす!「というスローガンまで登場した。この本の第1章にその場面の写真が証拠として含まれている。デモに参加する学生との交信を通じて、やっと入手した写真だ。

2019年の香港の反共産党自由主義運動は、ただちに台湾の選挙革命につながったことに注目しなければならない。全世界に散らばって暮らしている海外の中国系の人口は5000万に達する。香港、台湾、海外の中国系人口につながる自由のベルトは、それ自体が一つの巨大な勢力と見ることもできる。2000年存続してきた皇帝支配体制を終息させた中国共和革命の父、孫文は、香港で革命運動を始めた。1895年、香港の興中会が起こした革命の南風が、結局15~16年にわたって清朝を倒す民国革命につながった。2019年の香港自由化運動の余震がどのような結果を招くのか、全世界が息を殺して見守っている状況だ。

親中イデオローグらはよく、中国共産党の能力主義(meritocracy)、習近平の卓越した指導力、共産党に対する中国人民の圧倒的支持などを強調するが、中国体制に関するそのすべての賛辞は、中国政府のプロパガンダに過ぎない。中国の劣悪な人権状況を見てみよう。貧富の格差、地域葛藤、都農葛藤、立ち遅れた医療システム、官僚主義、腐敗構造など、中国はまるで大きな貨物を積んで鈍い動きをしている“ジャガーノーツ(Juggernaut 大型トラック)”を連想させる。

コロナウイルスの拡散で改めて証明された。中国の問題は、もはや中国だけの問題ではない。世界はもはや中国共産党の全体主義的人権蹂躙および政治犯罪をこのまま傍観していることはできない。中国は変わらなければ存続できない。香港のデモはその変化の始まりかもしれない。

Q:香港以後は台湾、台湾以後は韓国が中国支配下になるとの懸念もある。習近平主席は、韓国が元々中国のものだったと言ったこともある。

コロナウイルス事態を振り返ってみよう。台湾と香港はいずれも迅速に中国からの入国を防いだ。その結果、2020年4月1日現在、台湾の感染確定者は329人、香港は714人と統制されている。一国両制のもと、香港は中国の一部である。台湾の第1の交易国は他ならぬ中国だ。対中国輸出が全体輸出の27.9%に達する。にもかかわらず台湾は迅速に中国からの入国を防いだ。台湾はまた香港と緊密な経済関係を持っている。香港は台湾の第3の交易対象だ。つまり、台湾と香港のシステムは連動していることを示している。台湾と香港はともに中国の現実をよく知っているため、機敏な封鎖戦略で防疫を成功させることができた。

果たして中華人民共和国は、現体制を維持したまま台湾と香港を吸収できるのだろうか。それはできそうにない。2019年の香港のデモを見よ! 毎日、大規模デモが続いたが、中国政府は1989年のように武力鎮圧を試みることは考えさえできなかったようだ。すでに中国は、全世界と貿易をする世界第2の経済大国に成長した。国際的孤立を自ら招くことはできない。世界がリアルタイムで香港の状況を監視しているのに、北京がどうやって1989年のように市民に戦車部隊を送ることができるのか?

香港、台湾、韓国、日本、ベトナム、モンゴルなど中国を取り囲むすべての国家は強力な「自由」の連帯を形成しなければならない。中国は世界第2の経済大国に成長したが、グローバルスタンダードに合った新しい価値を生み出すことはできていない。今日、中国共産党は人類のための普遍理念を創出できていない。せいぜい「富強」を第一の価値に掲げているくらいだ。アヘン戦争後の自強運動当時のモットーそのままだ。100年の国辱を克服し、富強な国家をつくるという一念だ。

かつて中華帝国は東アジアに通用する世界的な価値を生み出した。辺境の(朝鮮の)知識人が中華帝国の価値に魅了された理由もそこにあった。今日の中国は人類を感動させる新しい価値を生み出すことができていない。中国政府は、自由主義は西欧の価値であるために排撃すべきだと主張している。中国の人権問題を取り上げると「文化侵略」だと対抗する。マルクス·レーニンイズムも西欧から発源したし、人権は西欧の価値ではなく普遍価値である。

今日、中国は開かれた大陸ではなく、閉ざされた島のようだ。人口は多く国土は膨大だが、理念的にあまりにも矮小な国になってしまった。中華人民共和国が存続するためには、今後、より民主的で(more democratic)、より自由で(more liberal)、より憲政的で(more constitutional)、より開かれた(more open)体制に進むほかはない。コロナ事態以後、世界のすべての国家は公式に中国政府に透明な情報の開放と国際基準の確立を要求するしかない。

Q:毛沢東は内戦勝利のために日本に情報を渡して対価を受けたりしたという話がある。このようなことを中国人は知らないのか?

この本の3、4章では国共内戦当時、共産党軍の蛮行が集約された「長春ホロコースト」を扱っている。長春ホロコーストの生存者の中には当時7歳の少女、遠藤誉がいた。この少女はその後、中国政治を研究する学者に成長し、最近まで旺盛な著述活動をしている。遠藤先生は長春ホロコーストの体験を詳しく記録したノンフィクションを発表し、続いて日中戦争当時の中国共産党の親日行為を告発する問題作「毛沢東 日本軍と共謀した男」を発表した。韓国語訳本も出ている(「毛沢東 人民の裏切り者」)。遠藤先生の告発によると、国共内戦当時毛沢東は日本と共謀した親日分子だ。長春ホロコーストの生存者が逆境を乗り越えて立ち上がり、多くの人々の命を奪った中国共産党に恐ろしい復讐をしているのだ。

中国政府は対外的に200万の人員を雇用してインターネットを監視していると宣伝している。実際、中国のインターネットはリアルタイムで監視を受けている。中国の言論統制、ソーシャルメディアの監視は想像を絶する。数人が加入したソーシャルメディアのグループトークのメッセージで、問題になる1つか2つのテキストをピンセットでつかむように把握したりする。2014年以来、中国政府は個人のすべての個人情報を集め、等級をつける社会信用システムまで構築している。そのためインターネット空間で自由に会話を交わしたり、「不穏」なメッセージをやり取りしたりするのは容易ではない。習近平政権後、さらにマスコミ統制が強化され、表現の自由が萎縮したという話をよく聞く。

Q:中国はコロナ事態が中国発ではないと主張したりもした。最近の統計上、中国でコロナは静かになったとされているが、これも捏造と見るか?

中国政府としてはコロナウイルスの外部流入説を主張してこそ対内的に政府の権威を維持することができるのではないか。現在の統計を見ると、中国側の主張を真に受けることはできない。3月31日現在、コロナ発源地の中国の感染確定者は8万人あまりだが、米国はすでに20万人に迫っている。香港大学生物統計学の専門家、高本彦教授の推算によると、中国内の感染確定者の実数は4月1日現在で23万を超えている。果たして何が真実だろうか。

海外専門家の中で、中国政府の主張をそのまま信じる人は珍しい。中国共産党の暗い歴史を振り返れば、統計操作ぐらいは軽犯罪に属する。共産ユートピアの建設を目的に推進された大躍進運動が、数千万人を奪う大飢饉を招いた理由も、まさに政府機関の虚偽報告、統計操作および暴力構造に起因した。中国の反体制アーティスト、王鵬(1964~)の主張通り、「集団は個人に優先し、共産党は無誤謬」という2つの前提が中国政府を支配する「人民民主独裁」の実像だ。

むろん、中国がコロナウイルスの統制に大きな成果を発揮した可能性もある。全体主義的隔離および統制の方法で全人民を監視したためだ。われわれは数日前、米国のトランプ大統領が記者会見でニューヨーク、ニュージャージー一帯の全面的な出入り禁止(lock-down)に触れた直後、ニューヨーク州の州知事クオモ(Cuomo)は不法(illegal)だとし、対立する場面を見た。コロナウイルスのような非常の危機管理で、立憲民主主義(constitutional democracy)が中国式の人民民主独裁よりも非効率的になる恐れがある。立憲民主主義では目的が手段を正当化できない。そういう理由のため、中国式人民民主独裁が立憲民主主義より優越した体制と言えるだろうか?

Q:韓国が中国支配圏に属してはならない理由は? そして、どうすれば中国支配圏から離れることができるだろうか?

この本は中国建国秘史から大飢饉までの約15年の歳月を中国憲法総綱第1項に明示された「人民民主独裁」という誤った政治理念が招いた悲劇と解釈している。「人民民主独裁」は1949年6月に毛沢東が人民日報に発表した論説で正式化した中国政府の統治原則だ。毛沢東は人民民主独裁は「反動勢力の発言権は剥奪し、人民だけが発言権を享受させるもの」と規定する。中国共産党は人間を「人民」と「敵人」に分ける。人類を人民(people)と「非人民」(non-people)に二分する全体主義的発想である。20世紀の歴史を振り返ると、まさにその人民の名を特定階級、あるいは特定種族が先取りして詐称するとき、「非人民」に対して大規模な人種浄化、人権蹂躙および政治犯罪が行われた。

大韓民国の憲法は、自由主義と民主主義を結合した自由民主主義を基本理念としている。大韓民国の憲政史は、自由、人権、法治の拡張過程だった。選挙を通じて数回にわたって政権交代を成し遂げた民主制度の定着過程だった。今日、大韓民国の知識界および政界に広く広がっている親中·事大主義は、中国現代史に対する無理解と無頓着から始まったようだ。「反米·親中」の思想的根底には、1980年代のNL自主派の「民族解放」イデオロギーが敷かれているのではないか。当時、NL自主派は「反戦反核ヤンキーゴーホーム!」と叫んだ。彼らは北朝鮮と手を組んで「米帝を追い出そう」と主張していた。彼らにとって中国は、民族解放運動の宗主国のようだった。彼らとしては中国と韓国が「運命共同体」のように感じられるしかない。さらに深く見れば、日本帝国の汎アジア的黄色人種主義にまで遡及される恐れもある。当時、日本は「鬼畜米英」というスローガンで米国と英国を悪魔化した。

数学と科学は人類の共同遺産だ。同様に、自由と人権は西欧の価値ではなく、人類の普遍価値だ。韓国現代史は人類の普遍的価値に収斂していく過程だった。韓国現代史の成功事例が中国の未来を明らかにする灯火にならなければならない。その逆は歴史の退歩であり、文明の衰退である。

Q:本は3部作を予定している。全体を貫く窮極的なメッセージを一言で表すなら…

第2巻「文化大反乱1964-1976」を執筆中だ。できれば年内に終え、来年には第3巻「大陸の自由人たち1976-現在」を書く計画だが、果たして終わらせることができるか心配だ。「文化大反乱」では、今日の中国の政治文化を作った10年の大惨事に照明を当てる。「大陸の自由人たち」では、毛沢東死亡後に展開された中国民主化運動の怒涛の流れを描く予定だ。

究極のメッセージを一言で圧縮すると、おそらく… 韓国人よ、「辺境の中国ドリーム」から目覚め、「世界市民の目」で現代中国の悲しい歴史を直視しよう! より自由な、より民主的な、より憲政的な、より開かれた未来の中国のために、「大陸の自由人たち」とともに世界市民として自由の連帯を築こう!

(インタビュー記事 終わり)

さて、今回の第21代国会議員総選挙は与党(左派)の圧勝という残念な結果に終わった。ソン教授が指摘している今日、大韓民国の知識界および政界に広く広がっている親中·事大主義」は、これから、いっそう強まり、日本にとって安保上の大きな脅威になるだろう。

それから、ソン教授のこの発言部分に出てくる「NL自主派」というのは、こういうものだ。

韓国で80年代半ばに成立した運動圏の政派。NL(民族解放派)としてよく知られているが、自らは”NL”という用語の代わりに金科玉条とする自主/民主/統一の略語から取った「自民統」陣営、統一運動陣営と呼ばれることを好み、その後、学生運動や労働運動、進歩政党運動で「自主系列、自主派」などと呼ばれ、左派、平等派と呼ばれたPD系と競った。

韓国社会の根本的な問題は、米国に従属している民族の矛盾とし、外国勢力に反対(反米、特に在韓米軍の撤退を要求)し、北朝鮮と協力して統一に向かうことを主張した。これは北朝鮮寄りの傾向になり、一部で主体思想を信奉する流れが生まれたり、さらには北朝鮮の対南工作と結びついたりもした。

80年代から約30年間、韓国の進歩運動の主流だったが、2014年の統合進歩党解散事件以降、NLの暗い面が多く明らかになり、影響力が大きく弱まった。
https://namu.wiki/w/NLPDR

つまり、今、日本でよく耳にする、いわゆるチュサッパ(主体思想派)である。(「影響力が大きく弱まった」とあるが、どうして、どうして、文在寅政権になって、むしろ強まり、日本への浸透も深化しているではないか?)

保守の朝鮮日報が総選挙を前に、ソン教授のこういうインタビュー記事を掲載したのは、当然、選挙を見据えてのこと。中国に飲み込まれ、自由民主主義から、アジア的な人民民主主義に傾斜していく文在寅政権。彼らに導かれた国の行く末を案じ、警鐘を鳴らしたのだ。

が、この警鐘は韓国民の多くの耳に届かなかったか…。コロナ事態という非常時で「欧米と比べ、韓国政府の対応はすばらしい」と世界が感嘆しているとするプロパガンダにかき消されてしまった。(事前投票で、重大な不正が行われたという疑惑もあるが)

なんとも皮肉なことだが、今回のコロナは中国の武漢から発生した。後年、朝鮮半島の歴史を大きく動かした大疫病として永く伝えられることになるだろう。


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