脱北の夢破れ… 大量殺人犯として北に送り返された北朝鮮漁民(2)

投稿者: | 2019年11月14日

ところで、今回、2人の北朝鮮漁民が北に送り返されたことが明らかになったきっかけは、ニュース1(マネートゥデー・メディアグループの通信社)の取材者によるスクープだ。

ニュース1の取材者は、2人が北に送り返された11月7日、国会予算決算委員会の場で、会議に出席していた大統領府国家安全保障会議(NSC)関係者の携帯電話の画面に映し出されたショートメッセージをひそかに撮影した。

すると、そこに、この驚愕の事実が記されていたのだ。

JSA(共同警備区域)大隊長(中佐)から同日午前に送られたメッセージで、こう記されていた。

「団結! OOO中佐です。 今日15時に板門店で北朝鮮住民2人を送還する予定です。北朝鮮住民たちは11月2日、三陟に降りてきた人員で、自殺の危険があり、赤十字社ではなく警察がエスコートする予定です」

ニュース1のこのスクープで、この件は公になり、韓国政府は緊急ブリーフィングを行った。

11月2日、2人の北朝鮮漁民が乗った船が韓国軍に拿捕された後、北に送還するまで5日間、韓国政府は国民に隠していたことにある。

いや、ニュース1のスクープにより、今回は、たまたま発覚したが、これまでにも同様のケースがあり、それは隠ぺいされ果せていたとも考えられる。

野党は声高に真相究明と責任者の処罰を求め、国会は、大きな混乱に陥った。

予算決算委員会のキム・ジェウォン委員長(野党、自由韓国党)は、イ・ナギョン首相に「北朝鮮住民も韓国の国民であり、また、現憲法の規定上、北朝鮮も韓国の管轄であるため、韓国政府は(殺人容疑を受けている北朝鮮住民を)韓国の法廷に立たせ、処罰する義務がある」と主張した。

これに対しイ・ナギョン首相は、「(送還したのは)難民法と北朝鮮離脱住民保護法の対象ではないという判断が最も大きく、調査を行って法的処罰を行うとした場合、現実的に真実の究明は難しいという判断があったようだ」と答えた。

キム・ジェウォン委員長は「北朝鮮政権は、帰順した北朝鮮住民が犯罪に関係していたと主張している。今回の件は、それを理由に(韓国政府が)対象者を送還する実例を(北朝鮮住民に)示し、(帰順しようと考えている北朝鮮住民に)恐怖心を与え、帰順(脱北)そのものを防ぐ効果をもたらすだろう」と指摘した。

11月8日、キム・ヨンチョル統一部長官は国会で、「2人の漁民は死んでも北に帰ると陳述した」とし、2人に帰順の意思がなく、2人は自ら望んで北に帰ったかのような説明をした。

●朝鮮日報 2019.11.13.
キム・ヨンチョル統一部長官「北朝鮮漁民」国会報告は嘘

この説明に野党は「意図的な歪曲」と大反発し、国会は紛糾をきわめた。

実際、2人は自筆陳述書で帰順の意思を明らかにしており、この「死んでも北に帰る」と言う言葉は、(あくまでも自白の上のものだが)10月末、船上で犯行を犯した後、おそらくイカを売るなどして逃走資金を作るために、ひとまず北の港に戻ることにした際、口をついて出た言葉だった。

そして、いったん金策港に戻ったが、仲間が逮捕され、2人は漁船で韓国に逃げることにしたのだ。

このいったん北の港に戻ることにしたときの「死んでも北に帰る」と言う言葉を、キム・ヨンチョル統一部長官は、いわゆる「切り取り」して、本人たちは北に帰りたがっていたとする根拠にしたのだった。

閣僚級の高官が、その場しのぎで、こういう、すぐにバレる嘘を平気でつく。

思えば、私たちも何度も唖然とさせられてきたものだ。

さて、韓国政府が、これほどまでに北朝鮮側の顔色をうかがうのはなぜか?

ひとつ考えられるのは、金剛山観光問題だ。

朝鮮中央通信の報道によると、10月23日、金正恩朝鮮労働党委員長は金剛山を視察した際、韓国企業が設置したホテルなどについて「見るだけで気分が悪くなる、みすぼらしい施設」とし、韓国側と協議してすべて撤去するよう指示した。

今、韓国政府は、金正恩のこの言葉にふりまわされるかたちで苦慮している。文在寅政権としては、もう10年以上、中断しているこの南北交流事業を再開させたいのだが…。

金剛山観光は1998年11月に、北出身の現代財閥の創業者、鄭周永が実現させた。2002年10月、金剛山は北朝鮮の観光地区に指定され、陸路も開かれ(当初は海路のみだった)、韓国からの観光旅行が活発になった。

金剛山はまた、南北分断で別れた離散家族の再会事業の場ともなり、韓国と北朝鮮との窓口としての役割を果たしてきた。

しかし、金剛山観光は突然、中断された。

2008年7月、金剛山観光をしていた韓国人女性が北朝鮮兵に射殺された。北朝鮮は射殺の理由を、誤って侵入禁止区域に入ったからとした。しかし、本当に侵入禁止区域に入ったのか、射殺は妥当だったのか、謎や不審な点が多く、韓国政府は暫定的に金剛山観光を中止した。

これに対し、北朝鮮は「事件の全責任は韓国にあり、韓国が謝罪し、再発防止策を講じるまで韓国からの旅行者の受け入れを停止する」とした。

最後に、もうひとつ、悲しいエピソードを。

この夏、7月31日、北朝鮮から脱出してきた女性(43)と息子(6)が遺体で発見された。死後、2カ月が経過していた。死因は、餓死。家賃やガス料金は1年以上滞納、冷蔵庫は空だった。

命からがら、自由で豊かな韓国に来て、餓死したのだ!

北朝鮮住民たちが直面している暴虐で、あまりに過酷な現実。

この女性のことは、稿を改めて、少しくわしく書いてみたいと思う。


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